がん患者さんにとって貧血はよくある疾患の一つです。
貧血とは、赤血球が減少した状態のことを指します。
酸素を運搬してくれる赤血球が少なくなると、余計に血液を送る必要があるので心臓に負担がかかって息切れなどを起こします。
またあまり知られていませんが、貧血の患者さんは放射線治療の効果も落ちることも知られています。

こうした貧血はさまざま理由で発症しますが、最も多いのは鉄欠乏性貧血です。
出血を繰り返したり、栄養の摂取をうまくできていなかったりで体内の鉄が不足していることが原因です。

こうした鉄が不足した貧血に対して、最も多く用いられるのが鉄剤の処方です。

代表的な鉄剤フェロミア(クエン酸第一鉄ナトリウム)

毎日2〜4錠飲み続けるだけで鉄が補充されるので、便利な薬ではあります。
また1錠7.2円で4錠(約30円)を半年間飲み続けても約5400円で保険で3割負担であれば1800円程度の出費で済みます。
ただこれには欠点があり、一番は胃腸症状(嘔吐・食欲・便秘・下痢)などが起きやすいことです。1割〜2割の方が発症するのでこれが辛くて続けられないという方もいます。また便が鉄の影響で黒色になることも嫌がられることでもあります。
また、あまり注目されないですが大事な点として、赤血球の回復が遅いことがあげられます。およそ回復をし始めるまでに2週間ほど要して、十分な補充にいたるまでに6ヶ月ほど要します。致命的な欠点としては胃切除などで、腸管に異常がある場合は、鉄剤で補充しても体内に吸収されません。

上記のような理由で鉄剤内服が望ましくない場合は静脈注射が行われます。

鉄の静脈注射 フェジン(含糖酸化鉄)

上記のような懸念点が払拭されて、治療の反応性も早く、継続も30日程度で済みますが、一番の懸念点は外来で(理想的には)毎日静脈注射をする必要があることです。しかも2分以上かけて静脈注射する必要があるので、それなりに時間をとられます。入院患者さんならまだしも、外来患者さんでこれを行うのはかなり難しいでしょう。
費用の面でも、このフェジン自体は1本120円ですが、静脈注射料で320円、再診料で730円で1回あたり1170円、30日すれば35100円、3割負担で10530円とかなり高額な手出しが必要になります。

1回の点滴で治療できる モノヴァー(デルイソマルトース第二鉄)

そんなに頻繁に外来に通えない時(例えば在宅医療の患者さんの時)、このモノヴァーなら1回の治療ですみます。
正確には、以下の投与量を投与します。

投与前ヘモグロビン体重40-50kg体重50-70kg体重70kg以上
10g/dl以上750mg1000mg1500mg
10g/dl未満1000mg1500mg2000mg
40kg以下は別の計算式あり

点滴では500mgより大きい容量を注射する場合は1回あたり15分以上かけて点滴を行います。
500mgの投与では2分以上かけた静脈注射で済むので当院では患者さんの状態をみながら2回にわけてうつこともあります。一回の容量が大きいので予め採血で、鉄・フェリチン・TIBC(総鉄結合能)を測定し、鉄過剰にならないように検査をして、鉄欠乏の程度を測定します。価格は1000mgのバイアルで13000円程度(750mg投与する方も1バイアル使用します)で、3割負担の場合は4000円程度かかりますが、保険が効くこともありそこまで極めて高額というわけでもありません。新しいお薬なので、使える施設は限られますが、当院では常備していますので必要な患者さんに使うことも可能です。外来の患者さんでも、上記のような経口治療が難しく、頻回の外来受診が難しい方のような必要と認められる方には使用可能です。貧血治療でお困りの方は、ぜひご相談ください。