がん患者さんは、がんそのものだったり、治療の影響で食欲を落とすことがしばしばあります。
食欲減退の問題点は2つです。
①食事量が減り、体力がおちるため、衰弱が早い。
②人生の楽しみが苦痛に変わる
医学的には①が問題になりますが、患者さんの人生としては②もかなり大事で食事がつらくなると精神的にきつくなってきます。そこで今回は食欲を出す薬のリストをご紹介します。
ドンペリドン(ナウゼリン)
消化管の動きをよくするお薬。もともと食欲がない人には効果があまりないが
吐き気があって食べられない人や、食べてもすぐにお腹いっぱいになってしまう人におすすめ。
OD(Orally Disintegrating:口腔内崩壊)錠があり、口の中で溶けてくれる剤形のために吐き気があっても服用は可能。
食べる直前に内服する。
ただ極まれに心臓に悪影響を及ぼす(QT延長)ので、高齢者、心疾患あり、高容量で多剤内服(とくにCYP3A4 阻害薬を服用中の人)には使いづらい。その場合、同様に腸管の動きを助けてくれるメトクロプラミド(プリンペラン)やモサプリド(ガスモチン)を使用する。
六君子湯
脳に働き食欲を引き出すホルモンであるグレリンを増加させる働きがある。
漢方薬の中でも甘味があり、食欲がなくても飲みやすいと好評ではあるものの、
効果もそれなりで満足する方もいるけれどそんなに効く割合は多くはない印象。
ただ、一度は試してもよいでしょう。ただし、甘草が含まれているので、
他に漢方薬を使っている人は、偽性アルドステロン症という副作用が発現することがあり
定期的な採血をしておく必要がある。
2021年1月に承認された新薬。1日1回空腹時に飲む。グレリン受容体に作用して、成長ホルモンの放出を促し、食欲増進と筋肉増強の作用がある。副作用も目立つものはほとんどなく、メサドンなどの心臓のリズムに影響を及ぼす薬剤を併用していなければ、安全に使用できるが、使用できる癌腫が限られていることがネック(非小細胞肺がん、胃がん、膵癌、大腸癌)であることと、承認されて間もないために、認可された医療機関でしか処方できない。当院(つくし訪問クリニック早良)では、処方が可能です。
ドグマチール(スルピリド)
ドパミンD2受容体遮断作用を示し、抗精神病作用(統合失調症の陽性症状改善)と抗うつ作用を持つ一方で、胃粘膜血流改善作用による抗潰瘍作用と末梢D2受容体遮断による消化管運動促進作用があり、食欲を増進させる古くからある薬。古い薬ながら副作用の頻度もそこまで多くなく、特にうつ傾向がある患者さんには一度使ってみてもよいでしょう。
リフレックス(ミルタザピン)
ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)の一つ。抑うつ傾向のある眠れない患者さん対して使用すると、よく眠れて食欲も出るという作用をもたらしやすい。一方で鎮静効果もあるので、心が落ち着いて調子が良くなる人とぐったりしてしまって動きが悪くなってしまう人もいるので、試して使用して合うようなら使うという具合の薬。吐き気にも効くので、体にあえば便利な薬でもあります。
オランザピン(ジプレキサ)
統合失調症に治療薬としても優秀ですが、抗がん剤の吐き気止めとしても優秀なオランザピン。吐き気がおこるメカニズムとして、ドパミン、ヒスタミン、セロトニン、ムスカリンなどさまざま作用物質が関わりますが、それらの受容体をまとめてブロックする作用を持ちます。色々ブロックした結果、吐き気を止めたり、統合失調症の妄想を抑えたりする主の効果とともに、食欲を増進させたり、眠気を誘因したりする副次的効果もあります。頓用ではかなり使いやすいですが、連用すると沈静気味になることもあるので様子をみながら使うことになります。
リンデロン(ベタメタゾン)
やはり最後はステロイド。ここぞというときや、予後がもうわずかな場合は積極的に用いると、吐き気もおさまり、食事できることも多いです。ただ、効果も強い分、1週間単位で連用する感染症に弱くなったり、胃腸障害が起きたりする反面、効果も弱くなるので、元気を出したいイベントなどを狙って使用するようにしたいものです。抗がん剤投与時の吐き気止めなど1日だけ使う分には問題ないことが多いので、こわい薬というより、短く賢く使う薬と認識しておくとよいでしょう。
食事を楽しめると人生の質が高まります。主治医と相談しながらこうした薬を使ってみてください。
当院の外来でもそうした緩和医療のご相談を受けていますので気軽にお問い合わせください。
(金曜日は終日、ワクチン接種と並行して外来を行なっています。)
画像引用:医療総合サイトQLife(キューライフ)https://www.qlife.jp/